私の旅の必需品は「香りの漢方薬」

お香にまつわるお話

お香づくりにも使う「香りの生薬」が入った漢方薬

私は、今、エジプトに行く準備をしています。


旅行へ出かけるとき、
皆さんはどのようなものを持っていきますか?

着替えや化粧品、スマートフォンの充電器など
旅の必需品はいろいろありますが、
私が忘れずに持っていくもののひとつが、
普段から自分に合うものとして
用意している漢方薬です。

今回のエジプト旅行にも、
こちらの2種類を持っていくことにしました。

  • イスクラ勝湿顆粒
  • 救心感應丸 氣

実はこの二つには、
私がお香づくりで使っているものと同じ、
香りのある生薬が含まれています。

「お香の材料が、お薬にも使われている」

香司である私にとっては、とても興味深いことです。

旅先での胃腸の不調に備える「勝湿顆粒」

旅行中は、気候や湿度、食事、水など、
普段とは異なる環境に体がさらされます。

特に海外旅行では、食べ慣れない料理や
冷たい飲み物で胃腸が疲れたり、
急にお腹の調子を崩したりすることもあります。

「イスクラ勝湿顆粒」は、
体力中等度以下の人の、感冒、
暑さによる食欲不振、
急性胃腸炎、下痢、
全身倦怠などに用いられる漢方薬です。

中医学では、体内に余分な水分や湿気が
停滞して起こる不調を「湿」と捉えるそうです。

体が重だるい、むくむ、食欲が出ない、
お腹の調子が悪いといった状態も、
この「湿」が関係していると
考えることがあるらしく・・・

暑さや湿気、食生活の変化による
胃腸の不調に備えるため、
私は旅のお守りとして持っていきます。

ただし、私は薬剤師さんに相談し、
自分に合うものとして用意しています。

主役となる生薬は「藿香」

勝湿顆粒は、中国では
「藿香正気散(かっこうしょうきさん)」
と呼ばれる処方をもとにした漢方薬です。

名前にも入っている
「藿香(かっこう)」は、香りのよい生薬です。

藿香の香りには、
少し土を思わせるような落ち着きと、
独特の深みがあります。

一般にはパチュリとして知られ、
お香や香水にも使われています。

中医学では、芳香のある生薬によって、
体内に停滞した「湿」に
働きかける考え方を「芳香化湿」と呼びます。

昔の人々は、香りを
心身を整えるための
自然の力としても捉えていたのですね。

小さな三粒に沈香と龍脳「救心感應丸 氣」

もうひとつ、旅に持っていくのが
「救心感應丸 氣」です。

一回分は、とても小さな三粒。

この小さな丸薬には、
なんと「沈香」と「龍脳」が配合されています。

どちらも、私がお香づくりで
日頃から親しんでいる香原料です。

気つけ、息切れ、動悸のほか、
胃腸虚弱、消化不良、
下痢などに用いられる生薬製剤です。

長時間の移動や慣れない土地では、
疲労や緊張を感じることもあります。

もちろん体調に異変があれば
無理をしないことが大事です。

心を深く鎮めるような「沈香」

沈香は、香木の中でも特に貴重なものです。

樹木が傷ついた部分を守ろうとして
長い年月をかけて樹脂を蓄え、
その部分が芳香を放つ香木となります。

熱を加えると、甘さや苦み、
静けさを感じさせる複雑で
奥深い香りが立ち上がります。

武士が戦に行く前に沈香を兜に焚き染め
気持ちを鎮め、不安や恐怖をやわらげた
という話も伝えられています。

香道や仏教儀礼にも用いられ、
日本の香文化を語るうえで欠かせない香木です。

お香として聞く沈香の香りには、
呼吸をゆっくりと深くし、
意識を自分の内側へ戻してくれるような
魅力があります。

一方、漢方の世界でも沈香は、
香りをもつ生薬として古くから
珍重されてきました。

清涼感のある「龍脳」

龍脳もまた、お香づくりに使われる
代表的な香原料です。

鼻にすっと抜けるような、
透明感のある清涼な香りが特徴です。

龍脳はお香の調合をするとき、
香りを広げる役目があります。
すっきりとした印象を加えたい場合に使います。

ほんの少し加えるだけでも
存在感があるため、
使う量には少量から加減が必要です。

伝統的な処方の中でも、
その芳香をもつ特徴が生かされてきました。

沈香の深く静かな香りと、
龍脳のすっと通るような清涼感。

この二つが、小さな丸薬の中に
入っていると思うと、
香りの文化と生薬の世界が
深くつながっていることを、
あらためて感じます。

香りは、楽しむだけのものではなかった

現代では「香り」というと、
香水やルームフレグランスなど、
よい香りを楽しむものという印象が
強いかもしれません。

けれども昔の人々は、
植物や香木の香りを、祈りや浄化、身だしなみ、
そして心身を整えるためのものとして、
暮らしの中で活用してきました。

今回ご紹介した藿香・沈香・龍脳も、
お香の材料であると同時に、
長い歴史をもつ生薬です。

お香づくりを学んでいると、
一つの香原料の向こう側に、
文化や歴史、祈り、そして人々の健康を
支えてきた知恵が見えてきます。

私の旅を支えてくれる、小さなお守り

エジプトでは、古代から乳香や没薬など、
香りのある植物が神聖な儀式や
暮らしの中で使われてきました。

そんな「香りの原点」ともいえる
エジプトの土地を訪ねる旅に、
香りの生薬を持っていく——。

そう考えると、旅の常備薬も、
私にとってはひとつの
「香りのお守り」のように感じられます。

今回のエジプトでは
体調に気を配りながら、
現地で出会うさまざまな体験や香りを、
心と体いっぱいに感じてきたいと思います。

※この記事は、あくまでも私自身が旅行へ持参する常備薬をご紹介したものです。
漢方薬や生薬製剤は、体質、症状、持病、服用中のお薬などによって適否が異なります。
使用する際は添付文書を確認し、薬剤師または登録販売者にご相談ください。
また、お香として香りを聞くことと、医薬品として服用することは同じではありません。

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